「春はあけぼの」

花見で浮かれ、春の訪れを喜び楽しむ世間の方々に、反発するがごとく
私はこの季節が大嫌いです。
まず桜の花の壮大な美しさに押し倒されそうな気持ちになるのです。
それに、桜の咲く勢いに、私の魂や生命体そのものが、吸い取られるような気がするのです。
もう一つの理由として芸大を目指し二浪もした私は、現役のときを含め三回も
「サクラチル」の不合格を経験しているせいかもしれません。

今年も桜前線が東京に向かってくると同時に、私の体は体調をくずし
三十九度の熱にうなされ、お店を五日間も休む羽目になりました。
私のお客様の中には、税金も納め、いろいろなことが清算されるようで、
また新しく何かが始まるような喜びを感じ取るという人もいるのですが、
私にはどうもこの季節に馴染む事ができず、好きになれないのです。

春のまっただなかの四月四日は「おかまの日」と、私たちが勝手に決めてしまったのです。
何故かというと、三月三日が女の子の節句、五月五日は男の子の節句、
中を取ってそうなったのです。
東京でも前は、ゲイイベントがあったのですが、ニューハーフパワーは
大阪に押されぎみで、今では大阪を中心にイベントが繰り広げられているのです。
ちょうど今年は日曜日と言うこともあって、私も女友達二人で大阪へと向かいました。
午後五時の新幹線「のぞみ」に飛び乗り私たちの小旅行は始まりました。
車内から見える桜並木はとても美しいものの、私の心をなぜかナーバスにさせてくれました。
大阪のニューハーフに会うとあって、ちょっと気合を入れて化粧をしたせいか、
車内でも目立っていたようです。

大阪に着き、まずは堂山町のホモバー「シャイ・ボーイ」に挨拶に行き
八時半からの「Lサイズのバナナ」のショーを見に行きました。
ここのショーは、ママのセンスの良さが、照明・小道具・大道具・衣装・構成・振付・と
隅々まで行き届き、とても素晴らしく、手を上げる角度、目線の位置までも全員揃っていて
感動してしまいました。

場所は北からミナミに移り、十時からの「冗談酒場(ジョーダンパブ)」ショーを拝見しに行きました。
以前からここのお店の「タミコママ」には良くして頂き、事あるごとにショーを拝見させてもらっているのですが
ここのショーはコミックあり、綺麗なショーありとバラエティに富んだ素晴らしいショーです。
十時ぎりぎりに入店したのですが、五十席近くある客席はすでに満杯で、もう熱気むんむんの状態でした。
なんといっても、ここのコミックは大笑いします。
さすが大阪、、芸人の街と思うくらい芸達者なショーでした。

そして今回のメインイベント「ベティーのマヨネーズ」の特別ショーを
タミコママ達と一緒に拝見しにいったのです。
特別ショーには大先輩「カルーセル麻紀」さんのショーもあるとあって十二時半のショーは超満杯・・・
ギュウギュウ詰めのなか始まったのです。
始まる前にベティさんが私たちのテーブルに付いていただき、
いろいろと話が盛り上がりました。
そこで、ベティーさんがタミコママとベティーのマヨネーズのOB朝美さんと真子さん、
そして私の四人で何かセクシーなショーを踊ってくれと頼まれたのです。
曲も聞いていなければ、振付もないまま私たちは衣装を渡され、
オカマの日と言うこともあって、のりで踊ってしまったのです。
麻紀さんに客席で見てられるは、同業者はたくさんいるはで、もう何が何だかわかんないまま
イベントに参加してしまいました。
まさかこのステージで踊るなんて思ってもなかったので興奮さめやらぬまま、打ち上げまで参加させて頂きました。
打ち上げでも話は盛り上がりました。
そしてわけもなくボーイさんの服を脱がして遊んでいるあいだに時計の針は朝五時半を回っていました。
そのまま新大阪駅にむかい、東京まで帰りました。
もう車内では、取れかけて汚い化粧のまま人の目もなど気にもかけず、ぐっすり寝てしまいました。

私のマンションの向かいの新宿御苑の桜は、二日酔いのムカツキをさらに倍増させ、
気持ち悪くなり、戻しそうになりました。
早く桜が散り、あの新緑のすがすがしい季節、中学生や高校生の下半身の匂いがするような、
季節が来るのを心待ちにしながら、もう少しこの季節と戦っていこうと思いました。



*このエッセイは1998年よりヤンナイに掲載されたものです


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