「お弁当箱の思い出と共に・・・」

 お店をオープンして、あっという問に三ケ月が過ぎ、
ショータイムもやっと第二弾目を迎えることが出来ました。
前回の衣装や小物で私の部屋は、もう「夢の島」のようになってしまいました。
それに、日々の生活の疲れと、三ケ月をどうにか乗り越えられたという安心感のようなものから、
この荷物を片づける気力さえありません。
私は散らかし放題の部屋でただ殺伐と過ごす毎日でした。
 その日も、いつものように二回のショーを終え、部屋に帰り、
足の踏み場もない中を、なんとかベッドまでたどり着き眠りについたのでした。
MISIAの『忘れないで』の着倍音で起こされた私はケータイを取ると、
三年前に別れた大阪の元彼からでした。
別れて何度か電話はかかってきたものの、久しぶりの彼の声は、
経営者になって三ケ月、異様な孤独感を知り、それと戦ってきた私にとって、
心地よいものではないものの、決して不愉快でもなく、
懐かしい痛みのようなものを感じました。
 「お店はうまくくいってる?」と彼。
 「ボチボチかなあ・・・」と私。
 「彼氏はできたの?」
 「できるわけないじゃん!」
 「彼氏つくんないの?」
 「今の私にとって、お店と従業員のみんなが恋人かな・・・」
 「さみしくない?」
 「それはそれはさみしい毎日よ。
  けど、そんなこと言ってられない し、そんなヒマもないしね・・・。
  それに、あなた以上に私のことを愛してくれる人なんていないしね・・・。」
 「そうだよ、俺以上に准のことを想える男は、これから先も出てこないよ、絶対!!」
 
 こんな他愛のない会話をしている間に、
私のまだ起ききってない目からは、知らず知らず涙がこぼれていました。
よく最近お客様に、
 「准、儲かって儲かってしょうがないだろ」と茶化されると、
 「何言ってるのよ、いろいろ天変なのよ。そんなにすぐ儲かるなら、
 誰でもやってるわよ! それに気苦労だって色々あるしね。
 今私の目の横に針を刺してごらん! 日本中の名水百選に選ばれるくらいきれいな涙
 が溢れ出るわよ」
と言ってきたものの、その涙はとてもしょっぱく、ただ苦いものにしか過ぎませんでした。
 
 彼との想い出はたくさんあって、
本当に甘くほろ苦いものばかりで私の心の宝石箱といいたいのですが、
お弁当箱に、いっぱい詰め込んでしまってあります。
なんで弁当箱なのかというのは、
私が大阪のレギュラーショーに出演するため、
毎週そのレッスンのために新幹線に乗って通っている頃の話です。
私は朝四時まで仕事をし、六時台の「のぞみ」に乗るまでの二時間くらいの問、
寝てしまったら起きれなくなるし、と思い毎週新大阪の駅まで迎えに果てくれる
彼のためにお弁当を作ったのです。

 彼はそれをとても喜んでくれました。レッスンが終わり、また新大阪駅まで送ってくれた彼は、何度も「おいしかった」「うれしかった」を連発した後、
もう最終の新幹筰のホームで「本当にありがとう。ちゃんと食べたから、座ったら確認してみな」と言うのです。
別に新幹線の中でわざわざ食べ終わったお弁当を見ろなんて変な人だわと思いながら、
シンデレラエクスプレスは東京に向け発車しました。
なんとなく彼の言葉が気になった私は座席に着き、そのお弁当箱を開くことにしました。そこには何と真っ赤なバラの花がぎっしりと盛りつけられていたのです。
もう私は、レッスンや移動の移動の疲れなんか吹っ飛んでしまい、
泣き声を殺しながら溢れ出す涙を抑えるのが精一杯でした。
こんなことをしてもらったのは生まれて初めてで、私は本当のシンデレラになったようでした。
 久しぶりの彼からの電話で私の心の中のお弁当箱から懐かしい素敵な思い出が溢れ出てきました。
彼は最後に
「来月、東京に出張なんだけど会ってくれる?」と言い、
「いいよ・・・」と私は答えました。
「じゃあ楽しみにしてる」

 電話を切ったあと、なぜか早く掃除をして部屋を綺麗にしないと、と思い掃除をし始めたのです。
彼が泊まってもいいように、という私の複雑な甘い思いを消すことができずに・・・。

 ずうっと洗ってない風呂垢のこびれを落とすのは大変でした。
私の彼に対する想いもずっと洗い流されてなかったのかもしれません。

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