「ホモを愛した女」(U)

 人を好きになって何も見えなくなるなんてことは、
それまで私が生きてきたなかで経験のない出来事だった。
その時の私には、好きになった男がホモだと言う事や、
その彼に5年も付き合っている彼氏がいることなど、どうでもよかった。
そんなことよりも私は彼を愛しているという気持ちを抑えることなど
もうできなかったのだ。

 知り合ってからの私たちは、どちらから誘うというわけでもなく、
毎日のように顔を合わせ楽しい時間を過ごした。
彼の事を知れば知るほど、会えば会うほど、私の気持ちは豊かになり
優しくなり、元気が出てくるような不思議な快感があった

 彼はいわゆる先天的ホモで、子供の頃から男が好きだったにも係わらず結婚をし、
子供も二人さずかり、さらに離婚してまたホモの世界に戻ってきたという
経歴を持っていた。
そして結婚生活十年の間に一度も、男とも女とも浮気をしたことがないというから
彼の真面目な一面を伺うことができた。
ホモの世界に戻った彼にとって、女性を愛することができたということ、
結婚をしたという過去は、彼にとってトラウマ的な出来事になっていたようだ。
そんな彼のトラウマを刺激し思い出させるように、
女の顔をした男の私が彼の前に出現してしまったわけだ。
元ホモとして男を愛し、現在はニューハーフとして、
いわゆるノーマルな男に女として愛されることを望み生活している私と
以前女を愛することができた現役ホモの彼との出逢いは、
とても複雑ながらも、人が人を想い、愛していくという
道程を踏むことには変わりはなかった。
二人にとってはもう、男とか女とか、ノーマルとかアブノーマルとかなどは
どうでもよかったし、なにも気にならなかった。

 私たちはお互いのことを理解し始め、尊敬しあった。
そしていよいよ心の会話だけじゃ物足りなくなり、
そろそろベットインしてもいいと思われる頃、私の部屋でシャンパンを飲み、
語り合い、体の会話を楽しもうとベットルームに入ることになった。
それでも濃厚なセックスをしたときよりも
とても幸せな思いをすることができた。
彼はベットルームの扉を閉めずに全開のままで、
まるでいつでも逃げ出せるかのように私を抱いていたこと。
私は彼の興奮度を確かめたくなり、不自然にならないように、
足で彼の股間に触れるものの、いっこうに反応の様子が伺えられないにも係わらず
私の股間はもうビンビンにおったってたこと。
それはとても不自然な状態だったに違いない。
彼から「シャワーでも浴びる?」と言ってくれるのを期待している私を
まるで裏切るように、彼の口から出た言葉は、
「なにか面白いビデオないの?」
と言うだけだった。
あまり先急いじゃだめだと思った私は、
その日録画していた「そこが変だよ日本人 ゲイ編 」を
二人で笑いながら見てしまった。
そしてビデオを見終わった私は、突然ベットから飛び出し、
もう時間だと一言だけ残し、彼氏が待つ部屋に帰っていったこと。

 どれをとってもホモを愛した私にとって辛いことではあっても、
人を愛した私にとっては幸せな夜だった。

 その夜から三日後、彼は前々から予定していたハワイ旅行に
ホモ仲間五人と旅立っていった。
彼のいない毎日はとても淋しく、いつ国際電話がかかってきてもいいように
極力外出しなかったし、エアメールが届いてないかと
郵便受けを念入りにチェックしたりする日々が続いた。
そして彼が旅立って四日目にエアメールは届いた。
それだけで一日がハッピーに過ごせた。
彼が帰国する日には、彼の好きな時期はずれのレースフラワーを
花屋さんに届けてもらい。彼の店に届けてもらった。

 八日間顔を見なかった私たちは、会った瞬間に何かが終わった事に気がついた。
それは暗黙の了解のように言葉にするわけでもなく、
心で終わりを感じた。
それは時差ぼけの彼の疲れとか、
必要以上に色黒になった顔とかじゃなく、彼の心が分かるようになった証だった。
こんなことで彼の心が分かるようになるなんて、
私にはとってはとても悲しい結末になった。
彼が帰国してから三日目、私は彼に
「もうこれ以上恋愛感情を持って付き合う事は出来ない」
と告げられた。私はどうすることも出来なかった。
ただ一言
「もうしばらく会うのはよそう」と言い
彼は彼氏の待つ家に帰り、私は一人淋しくベットで泣きながら眠ることにした。

 ホモを愛した女の話はこれで終わるけど、彼とは今でも違う愛で
結ばれていると信じている。
だってそう言った次の日からも、
どっちが誘うわけでもなく、毎日のように連絡をとったり、
会ったりする関係は続いているからだ・・・・・・・・・・

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