「ホモを愛した女」(T)

 二日酔いの胸やけに、すっきりしない目を擦り携帯電話に出ると、
昔馴染みのお客様O氏からの同伴のお誘いだった。
O氏とはかれこれ7〜8年のお付き合いで、公私共にお世話になっている。
私たちはもうお客様とホステスという関係ではなく、友達でもなく、
まして恋人同士なんかでもない、まるで肉親のような、
なんとも例えがたい関係が成立している。
いつも仕事の話をしたり、恋愛論について語ったり、会話の波長が合うし、
とても居心地のいい関係が保たれている。
かといって肉体的な関係を楽しんだ事は一度もない。
周りの仲間は、その方が不思議なくらいと言うけれど、お互いにそっちの方は
求めても無いし望んでもいない。

 六本木のお寿司屋には、O氏とO氏が最近熱を入れ始めたクラブのお姉ちゃんとが
もう食事をしていた。オカマが食事をご馳走になる場合というのは、
太鼓持ち的な役割が多く、二人の会話をうまく運ばせたり、
その場のムードを和らげたりする潤滑油的なものを求められる。
オカマ界最後の職人と異名を取った呑奈准としては、成功率100%の確立で
カップルを成立させただけに、へたを打つことは出来ない。
ましてO氏は最近離婚したばかりで、少しブルーになってただけに、
元気になってもらういいチャンスだ。
必要以上に場を盛り上げるのが、最後の職人の欠点でもあり
これからの課題ではあるが、
お寿司屋でも本当の職人さんを色仕掛けでからかいながら
楽しく三人で食事をすることができた。

同伴出勤すると、お店はそれほど混んでなく、サラリーマンの三人連れ、カップルが一組
そして私の目をひいた男性客が一名だけだった。
だいたい一人で遊びにくるお客様というのは、
ニューハーフに性的魅力を感じ、「あわよくば・・・」と思い飲みに来る人が多い。
年の頃は三十半ば過ぎくらい、色黒、短髪口ひげ有り、しかもマッスルと
どれをとっても私好みの彼のテーブルに早く付きたいものの、
O氏のテーブルは盛り上げないといけないし、「あわよくば・・・」の
タイプのお客様なら、少しじらしておいた方がいいと思った。
しばらくして私は、トイレで念入りに化粧直しをし、彼のテーブルに付く事にした。
色っぽく女を誇張し、いらっしゃいませ〜(ハァト とテーブルにつくと
そこにはなんか違うムードが漂い、私の期待は一瞬にしてかき消されてしまった。
というのは、彼は、あけみ姉さんが、カツラを取り、化粧を落とし短髪野郎兄貴に
戻った時に良く行くホモバーのマスターだったのだ。
確かにホモっぽいとは思ってたものの「あわよくば・・・」のお客様と勘違いしてた私は
ものすごくがかりした。
ホモの人は、男の格好のまま男が好きなわけで、私たちみたいに女の格好をしている
ニューハーフなんてなんの興味もないのだ。
そこで最後の職人としては、どんなお客様でも楽しませなければいけないという
使命感のもと、彼にわけもなく色気商売を笑いに変え、楽しんで頂く事にした。
ショータイムのときも、私のサービス精神は止まることを知らず、
投げキッスをしたり、ウィンクをしたりと、ただの色ボケ女の状態になっていた。
また彼が帰る際も強引にお別れのキッスを強要してしまった。
ふと気づくと最後の職人と誰が言ったのか?O氏はもうすでにお帰りになっていた。
こんなんでいいのかしらと反省するまもなく、私は違うテーブルについていた。
一日が終わりホモバーのマスターの彼と何を話したのか
会話の内容も覚えていないのだが、O氏といる時の居心地の良さとは違う
心地よさを感じていた。
彼が男を好きといった次元の問題ではなく、私は只、彼にまた逢いたいと願っていた。

 そういえばO氏と 十日位前に飲んだとき
「もう一生誰かを愛したりすることは、無いと思うんです」と言うO氏に
「なに言ってんのよ!バカバカしい、
 絶対にまた好きな子くらい出きるに決まってんじゃないのよ!」
と半年も人を好きになってない私自身に言い聞かせるように、
バトルを繰りひろげていた。
あれからO氏は新しい恋が始まろうとし、そしてこれから何かが始まろうとしていた。

                                                (つづく)

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